コミュニケーションデザインとは?重要な理由から実践の流れ・事例まで解説



コミュニケーションデザインは、現代の情報過多な社会において、企業やブランドが消費者の心に響くメッセージを届けるために欠かせない要素です。単なる広告だけでなく、SNS、Webサイト、AR/VRなど多様な媒体を通じ、ターゲットの心を動かすデザインを設計することが求められます。本記事では、コミュニケーションデザインの基本概念から重要性、成功に導く具体的な手順や事例まで詳しく解説します。



コミュニケーションデザインとは

コミュニケーションデザインとは、人々に行動を促すために、「誰に・何を・いつ・どのように伝えるか」を計画・設計することです。単にメッセージを届けるだけでなく、工夫することを指します。

コミュニケーションデザインの基本の要素は、次のとおりです。

  • ターゲットの設定(誰に伝えるか)
  • 媒体の設定(どのように伝えるか)
  • メッセージの設定(何を伝えるか)

これらを通じて、狙った人に狙った情報を伝え、効果を最大化することを目的としています。


コミュニケーションデザインが重要な理由

コミュニケーションデザインは、下記の理由から重要視されています。


情報過多時代では心に届くコミュニケーションが必要

現代では手軽に膨大な情報へアクセスできるため、企業のメッセージを消費者の心に届けるためには工夫が必要です。

HubSpot Japan株式会社が行った調査によれば、「広告以外のチャネルでのリード創出に迫られている」と考える企業が全体の57%に上り、さらに「見込み客は競合他社の情報を収集するようになったと感じる」と感じる回答者は36.6%に達しました。

消費者は日常的に膨大な情報に触れており、その中で企業のメッセージを印象付けるには、従来の広告手法だけでは不十分です。顧客の目を引くだけでなく、心に届くような魅力的なコミュニケーションをデザインすることが求められます。

参考:PR TIMES「HubSpotが『日本のマーケティング組織が抱える課題』についての意識調査結果を発表」

ターゲットの行動を変容させる必要がある

ターゲットの行動を変えるためには、心に響くメッセージを発信するだけでなく、そのメッセージがどのように受け取られるかを考慮したデザインが欠かせません。効果的なコミュニケーションデザインによって、ターゲットにメッセージがしっかりと伝わり、心に響いた結果として行動の変化が促されることが理想です。

コミュニケーションデザインは単に情報を伝えるだけでなく、顧客の行動を積極的に引き出し、最終的には企業の目標達成にも貢献します。


コミュニケーションデザインの実践の手順

コミュニケーションデザインは、下記の手順で実施します。

  1. ターゲット選定
  2. 利用するプラットフォームの選定
  3. 伝える内容を決める
  4. 効果測定
  5. 改善

各工程について、詳しく見ていきましょう。


1.ターゲット選定

コミュニケーションデザインは、まず「誰に届けるのか」を決めることが重要先決です。単に「30代女性」といった大きなカテゴリでターゲットを設定するのではなく、具体的なペルソナを設定します。

ターゲットのライフスタイルや価値観、趣味嗜好などが明確になることで、ターゲットにより深く響くデザインを考案しやすくなります。

たとえば、ペルソナが「都市部に住み、週末にアウトドアを楽しむ30代後半の女性。仕事はIT系で、健康や環境に配慮したライフスタイルを好む」の場合、「健康に良い環境配慮型のアウトドアグッズ」や「都会生活の中でも自然を感じるライフスタイル提案」などがターゲットに響くことを想定できます。

2.利用するプラットフォームの選定

ターゲット層が日常的に利用しているメディアや利用時間帯、頻度、使用デバイスなどを把握したうえで、利用するプラットフォームを選定します。

総務省が13歳から69歳までの男女1,500人に対して行った調査によると、令和5年における年代別のインターネット利用時間は、平日が10代、50代、60代で大幅に増加し、休日は10代が大幅に増加しています。一方、20代と30代は休日の「テレビ(リアルタイム)」視聴の平均利用時間が大幅に減少しており、特に平日の50代ではインターネット利用がリアルタイムテレビ視聴を上回る状況です。

また、60代ではテレビのリアルタイム視聴時間が平日200分、休日300分を超えています。

こうした情報を踏まえると、「50代に対しては平日昼間のインターネット広告を増やし、10代のターゲットには休日に動画広告やSNS広告を集中的に配信する」「50代に対しては平日昼間のインターネット広告を増やす」といった戦略が有効であることがわかります。

参考:総務省「令和5年度情報通信メディアの利用時間と情報行動に関する調査報告書<概要>」

3.伝える内容を決める

プラットフォームによってユーザーの関心や利用目的が異なります。

たとえば、InstagramやTikTokでは視覚的なインパクトが強く求められるため、ビジュアル重視の短尺動画や画像が効果的です。

一方で、YouTubeでは長尺で深堀りした内容が好まれる傾向があります。そのため、製品レビューやブランドストーリーの紹介、専門家による解説など、視聴者がじっくり視聴しながら製品やサービスへの理解を深められるようなコンテンツが効果的です。

また、X(旧Twitter)では、短文での即時性を活かした情報発信が適しています。速報性の高いニュースやイベントに関する投稿、話題性のあるトピックに関するコメントなど、ユーザーが素早く反応しやすいコンテンツを提供することで、拡散効果や反響を得やすくなります。

このように、各プラットフォームの利用シーンやユーザーの関心に合わせて適切な形式でメッセージを届けることで、ターゲットに響くコミュニケーションが可能になります。

4.効果測定

ブランディングは顧客の心理や態度に影響を与えるため、絶対的な基準が存在せず、適切な指標の選定が重要です。

ブランディング活動が顧客の行動に現れるまでには時間がかかるため、短期間での効果測定が難しいという特徴があります。

そのため、まずは目的(売上向上、認知度向上、顧客イメージの変革など)に応じて、適切な測定指標(KPI)を選定し、活動の成否を判断できる基準を設けることが大切です。たとえば、「売上を10%増加させる」を成功基準とするなど、具体的な基準があると判断がしやすくなります。

また、下記の指標を設定するのも1つの方法です。

5.改善

効果測定の結果をもとに、改善ポイントを明確にし、具体的な改善策を立てることが重要です。たとえば、NPSの低下が見られた場合、顧客満足度の向上が必要です。アンケート結果から「製品の品質が期待に達していない」や「カスタマーサポートの対応が遅い」などの不満要因が明らかになった場合、それぞれに対する改善策を立てます。

ブランドの認知度が低い場合には、広告キャンペーンやSNSでのプロモーションの強化が効果的です。たとえば、特定のターゲット層に向けたオンライン広告やテレビ広告を活用します。


コミュニケーションデザインの成功に関わる要素

コミュニケーションデザインには、下記の要素が関わっています。

  • UXデザイン
  • UIデザイン
  • ストーリーテリング
  • 多チャネル戦略

コミュニケーションデザインの成功に関わる要素について、詳しく見ていきましょう。


UXデザイン

UX(ユーザーエクスペリエンス)デザインは、ユーザーが製品やサービスを通じて得る体験を向上させるためのデザインです。ユーザーが求める情報を簡単に探せるようにし、誰でも直感的に操作しやすいサイト設計を行うことが重要です。

たとえば、必要な情報が分かりやすく整理されたメニューやナビゲーションを設けることで、ユーザーがストレスを感じずに目的の情報にたどり着けるようにします。

また、ページの表示速度が速いことやデザインの統一性も、UXの構成要素の1つです。UXデザインの工夫によってユーザーは快適に製品やサービスを利用できるようになるため、満足度が向上します。

UIデザイン

UI(ユーザーインターフェース)デザインは、ユーザーとサービスをつなぐすべての接点を設計することです。たとえば、フォントやボタン、メニューといった視認性や操作性に関わるものが該当します。

デザインがわかりやすく、視覚的に心地よい形で整えられていることで、ユーザーは直感的な操作が可能となり、サービスへの満足度が高まります。ボタンの配置や大きさが適切であると、ユーザーは迷うことなく操作できます。同様に、フォントが読みやすくデザインされていると、情報がスムーズに伝わり、ストレスを感じずに内容を理解できるでしょう。

このように、UIデザインはサービスの使いやすさに直接影響を与えることで、満足度を左右する要素です。

ストーリーテリング

ストーリーテリングとは、ブランドやプロダクトの背景にあるストーリーを通じてユーザーの共感を引き出すことです。製品やブランドがどのような想いで生まれ、どのような価値を提供するのかを伝えることで、単なる商品紹介を超えた深いつながりを築けます。

たとえば、環境に配慮した製品を提供するブランドであれば、製品開発の過程で行っている環境保護の取り組みや、製品がもたらす社会的な意義をストーリーとして伝えることで、ユーザーはその理念に共感しやすくなります。

多チャネル戦略

多チャネル戦略は、SNS、Webサイト、実店舗といったオンラインとオフラインのチャネルを統合し、一貫したメッセージをさまざまなプラットフォームで発信する手法です。ユーザーがどのチャネルでブランドに接触しても、一貫した姿勢やメッセージを伝えられるため、ブランドの信頼度が向上します。

たとえば、SNSでは視覚的なインパクトを強調し、Webサイトでは詳細な情報を提供、実店舗では直接体験を通じてブランドの理念を感じてもらうというように、各チャネルの特性を生かして相互に補完し合う構成を取ることが重要です。


コミュニケーションデザインの事例

コミュニケーションデザインは、多くの企業が実践しています。代表的な事例を8つ紹介します。


【永谷園】生姜にフォーカスしたブランディング

食品メーカー永谷園は、「冷え知らず」さんの生姜シリーズをWebと広告を組み合わせた独自のコミュニケーションデザインで展開しました。生姜を中心に据えたブランディングを行い、消費者に生姜の魅力や健康効果を訴求しています。

永谷園は「永谷園生姜部」を設立し、生姜に関する研究活動を推進するほか、大学との共同研究を行い、試験農場で得られた研究結果や新たなレシピをWebサイト上で公開しました。商品そのものを強くアピールするのではなく、健康に対する信頼や食材としての生姜の価値を少しずつ広め、消費者と着実に関係を築いていくことを目指しました。

さらに、Webでの情報発信を基盤とした後、新聞やテレビといったマスメディア広告を投入したことで認知度がさらに拡大しました。

参考:永谷園「『冷え知らず』さんシリーズ」

【ホンダカーズ東海】自分で描いた車の絵が背景を走り回る

ホンダカーズ東海は、クルマに興味を持つきっかけを提供し、Hondaブランドへの親しみを感じてもらうことで、次世代のファンづくりを目指しています。

その取り組みの1つとして、来店者が描いたクルマの絵が店舗の大型モニター上で動き出す体験型イベントを開催しました。来店者は自分で描いたオリジナルのクルマが、スクリーン上で自由に走り回る様子を楽しむことができます。

愛知県知多半島の街並みを再現した背景にホンダのJET機が飛ぶ演出も加わり、子どもから大人までワクワク感を味わえます。

子どもたちがモノづくりの楽しさを体験し、クルマへの興味を育むきっかけとなるだけでなく、地域の皆さんとの良好な交流を深める場にもなっています。

参考:Honda Cars東海・岐阜中央「ダンボールクラフト体験」

マイナビバイト「座ってイイッスPROJECT」

2024年3月に開始されたこのプロジェクトは、アルバイト中の“立ちっぱなし”問題に着目し、従業員の身体的負担を軽減する「マイナビバイトチェア」を導入しました。

社会的課題である労働環境の改善を分かりやすく示す取り組みとして注目され、アルバイト層へのサービスの認知を広げる効果を発揮しています。

共感を呼びやすいテーマ設定と実際の改善策の導入が、ターゲット層との結びつきを強化し、マイナビバイトのブランド価値向上にもつながりました。

参考:マイナビ「NEWS RELEASE」

静岡市プラモデル化計画

静岡市は地元の特産品であるプラモデルを活用し、地域活性化を目指したシティプロモーションを展開しました。市内各所に「プラモニュメント」を設置し、プラモデルの魅力を国内外に発信しました。

このプロジェクトでは、市民と観光客の関心を高め、訪問者数増加や地域への愛着形成を実現しています。地域資源の効果的な活用が新たな魅力を創出し、観光誘致や市民参加型のプロモーションにつながりました。

参考:静岡市「静岡市プラモデル化計画~世界に誇るプラモデルを活用したシティプロモーション~」

延岡メンマプロジェクト

宮崎県延岡市は、放置竹林の問題解決と地域産業の振興を目指し、孟宗竹を活用した国産メンマ「延岡メンマ」を開発しました。環境保全と特産品創出を両立させ、竹林問題の解決と観光資源の活用を同時に実現しています。地域課題をポジティブな価値に転換し、関係人口の増加や地域ブランドの向上を果たした点が成功の鍵です。

参考:延岡メンマ

げんきな免疫プロジェクト

「げんきな免疫プロジェクト」は、免疫ケアの重要性を広めるために、キリンホールディングス株式会社をはじめとした企業と自治体が協力して「全国統一 免疫対策テスト」などの啓発活動を行っています。社会課題と健康増進を結びつけたプロモーションにより、多くの共感を得て、継続的に関心を高める取り組みを実現しています。

参考:キリンホールディングス株式会社「げんきな免疫プロジェクト」

チョコラBBのSDGsキャンペーン

エーザイ株式会社は、国際女性デーに合わせた「チョコラBB」のSDGsキャンペーンを展開。LINEを活用した段階的なコミュニケーション設計により、認知向上とターゲット層への深い浸透を図りました。

商品の特性とSDGs活動を効果的にリンクさせることで、ユーザーの共感を獲得し、購買意欲の喚起に成功しました。

参考:LINEヤフー for Business「LINEを段階的に活用したコミュニケーション設計で、認知率や信頼性が大幅アップ」

ダイキン工業のコミュニケーションデザイン

ダイキン工業は、エネルギー・ソリューション事業立ち上げに際し、一貫したコミュニケーションデザインを採用。明確なメッセージ発信で社会とのつながりを強化し、ブランド価値を高めました。製品の機能訴求と社会的価値を組み合わせた戦略が、新規事業の成功と市場での差別化につながりました。

参考:ダイキン工業株式会社「「つながり」と「ブランド」をデザインするコミュニケーションデザインとは」


コミュニケーションデザインでブランド力を高めよう

コミュニケーションデザインの実践により、ユーザーとのつながりを深め、ブランド価値を高めることができます。

快適なUXやUIの設計、ユーザーの感情に響くストーリーテリング、多チャネルを活用した一貫性のあるメッセージ発信を組み合わせることで、顧客に愛され、長く支持されるブランドを築くことが可能です。顧客との関係を強固にし、ブランド力を高めるためにも、コミュニケーションデザインを積極的に活用していきましょう。


▶監修:足尾暖氏

【プロフィール】
株式会社ZERO Animation 代表取締役
プロデューサー

ゲームプロダクション、大手デジタル広告代理店での経験を経て2023年、株式会社ZERO Animationを起業。
アニメーションを軸にしたコンテンツ制作に加え、ライブ、展示会など幅広いイベントを手掛け、企画、集客、制作、運営、分析を担当している。


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